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    VN人留学生受入れの成功のために

    ベトナム・ホーチミン市 2013年8月
    学校法人 すばるアカデミー 藤沢 謹志

    皆様におかれましては益々ご健勝のこととお喜び申し上げます。

    私は、ベトナム・ホーチミン市にて「すばるアカデミー」を運営しております藤沢と申します。

     2,3年前から増加し始めたベトナム人留学生数は、昨年度、大幅な伸びを見せ、今年も益々その勢いを強めそうな気配です。貴校でも休み時間となれば、元気なベトナム語が響いているのではないでしょうか。

    この小稿では、掲題について書かせて頂きますが、先ずは、ベトナムの留学状況の一端をご理解しやすくなるとのことから、ベトナムの日本留学に関しての経緯と本校の留学への取り組みから申し上げさせて頂きます。

    1 ベトナムにおける日本留学の経緯
      本校としましては、2004年から日本語教育の集大成として、留学事業に取り組んでまいりました。早いもので、これまで、約10年となります。ベトナムで日本留学に専門に取り組んできた学校としては最も古い学校の一つと言えるでしょう。

     当時は、実は現在と少し似ている状況で、中国からの留学生が激減し、日本から多くの日本語学校がベトナムから留学生を募集したいと訪越されて来ました。

     ただ、留学生としての基礎体力(学力・資金)や環境が整っていない中での募集でしたので、程なく日本で問題が起こりました。その後、ベトナム人留学生のビザの厳格化へと移り、それと同時に日本留学を掲げ、学生を集めていたエージェントや機関は姿を消しました。

     残念ながら、こういった機関は、殆どが教育の意識が足りないため、効果(収益)が望めないとすぐ他の国への留学斡旋へと姿を変えたり、消えたりするということが少なくありません。

     ところで、小生は、その数年前(1997年頃でしょうか)から、企業での研修生への日本語指導などを通して、研修生の斡旋や送り出し・受け入れの状況や経緯などを見知っておりましたので、研修生送り出しで問題を起こしたところ(官民共に)が研修生を送り出せなくなっており、そういったところが名前を変えて留学を扱っていたりすることに愕然としました。

     そういった機関が、日本から日本語学校様を10数校集め、フェアーを行うことがございましたが、その通訳として会場に足を踏み入れた途端、大きな垂れ幕が目に飛び込んできました。 そこには 『日本で働くチャンス!』 とベトナム語で大書されていました。一生懸命、留学生を募集されている日本語学校の日本人担当者の頭上にそういった文言が架かっているという光景は、複雑な気持ちにさせられました。

     小生は、次々にブースに訪れる”出稼ぎ希望者“に留学の意義を説きながら、どうすればこんなことが起こらないようにできるのかを思わずにはいられませんでした。

     そこで「自分の人生を賭けた留学なのだから、学生が自分で判断したり、決めたりできるような」意識付けと学生自身を情報面で強くし、自己防衛が出来る留学情報の提供、そして、学生自身が主人公であるべき環境構築がどうしても必要だと考えました。

     それが2004年に留学事業を新たに始めたきっかけです。

     ただ、当初は、学力も資金もそこそこある折角の教え子達をどうすればそのやる気や資金の証明ができるか、日本語能力試験もハノイでしかなく、学生は列車で丸一日かけて受験に出かけていました。ベトナムの銀行や法律や税制の未整備もあり、正にないないづくしで、本当に苦労させられました。

     学生の田舎へ一日かけて行って家畜の数を数えたり、写真を撮ったりして、半年近くかけて、漸く作成・翻訳した書類を日本の学校様に郵送する際には、神棚に供えてお祈りしたくなったほどです。

     そして、結果として「資金形成の疑義」などの理由で認定書が交付されなかった学生たちの涙を幾度も見てきました。

      「お金のない子など初めから申請する訳がないのに、どうして勉強にすら行かせてもらえないのか」となかなか心から納得できませんでした。

     自分が1年、2年手塩をかけてきた「この子なら」と申請した子の涙が手の甲にポトリポトリと落ちる寂しげな音は聞いた者にしかわからないと思います。

     小生は、学生時代ベトナム語を専攻しましたが、ベトナムの”鎖国政策“の時代で、ベトナムの地を踏めませんでした。最初にベトナムの地を踏めたのは、大学卒業後10年が経っていました。そういったことから、彼らを見ているとどうしても自分の学生時代とオーバーラップしてしまうのです。

     教師というのは、10名申請者がいて、その内1名が不交付になって、夢が断たれ、励ましても立ち上がれず、自身の手の中から滑り落ちていった学生の顔や声ほど脳裏と耳に焼きついて忘れられないものです。今でも「どうしてるかな」と折に触れ、頭を過ぎります。 しかし、殆どの学生は、涙にくれた後、あきらめず、再度より学力を高め、資金面などの説明を強化してチャレンジしてくれました。

     そういった姿に、逆に、励まされたこともしばしばです。そうすれば有難いことに殆どの場合、当局から日本で学べる認定を頂けました。やる気だけは認めて頂けたのだと思います。

     そういった学生との授業や書類でのつきあいは、概ね1年間以上に亘ります。 授業以外に学生たちとこういった形で親しくなれるなど考えてもいませんでしたが、本当に手塩をかけ送り出してきた実感がございました。

     「艱難辛苦、汝を玉にする」という諺がございますが、再申請してまで、食らいつき、夢のスタートを自分で勝ち取った学生は、本当に輝いてみえました。

     そういった経験を通して、「留学に行く意味」や「留学生として何を持ち、どんな気持ちで海を渡ればいいのか」ということを自然と考えさせられました。

     現在、書類が簡素化され、不交付の心配がほぼ解消した状況だからこそ、手塩を掛けるという「原点」と時代に振り回された学生の涙を忘れないよう、常に自身を省みて、戒め続けなければならないと言い聞かせています。

     また、ベトナムでの苦労のお陰で、ベトナムからだけでなくアジアや途上国と言われる諸国の学生にとっても「先進国で自分の人生を切り開きたい」と願う学生が少なくないことに思いを馳せることができるようになりました。

     そういった心ある学生のためにも、積極的に海外へ出向いたり、日本留学の説明を独自で行ったりして、日本への距離を縮め、当局との信頼関係を築き、いつかは、日本留学が欧米圏の学生と同じように「思い立ったら」行けるレベルになれるようにしたいものです。

     そうして、一歩一歩ずつでも環境を整え、改善していくよう努めていくのも留学生を第一の顧客とする教育機関の大事な使命ではないかと存じ上げます。

     現在、本校に留学希望で相談に来る学生は、殆どが紹介ということもあり、今は軽い気持ちで訪れる子はいませんが、時にそういった学生や親と面談すると「大丈夫だろうか」と思わずにはいられません。

     本校からの留学生は、問題を起こした子はおりません。逆に、殆どの子が大学や大学院に進学しています。問題を起こさないように留学事業に取り組んできたのですから、当然なのですが、いろいろ創意工夫を行いました。

     次に、そういったノウハウの一端を申し上げたいと思います。

    2 問題を起こさせない事前指導

     ある本に、『成功というのは、準備と同義である』という言葉がございましたが、確かに準備万端であれば、殆どのことは成功裏に終われるように思います。

     留学でも同じだと思います。ここでの準備というのは、日本の地を踏む前に備わっていることです。学力や資金などが十分にあるというのは、その準備のレベルはまあまあ高いと言えます。

     ただ、ベトナムでは、その2点が十分にある子は、殆どが欧米圏へ留学します。現状、日本留学に来てくれる子は、どちらかが足りない子が多いようです。

     よく日本の日本語学校の方は資金の面に留意されるのですが、それならば、ご両親や家族・兄弟はては親戚までが資金面で支えるベトナムでは、支弁者がどれくらい本気で支える気があるのかこそ留意しなければならないと思います。

      「残高証明で3万ドルあるから大丈夫」というのでは、危ないと言わざるを得ません。それは、先ず、ベトナム人で銀行に残高で常に家を建てられるほどの大金を預けている家族は、殆どいないと思うからです。日本人でもいかがでしょうか? 

     先ず「3万ドル」というのではなく、本当にいくら資金があるのかを聞くことからはじめるべきです。そうすれば、「1万5千ドルなら、なんとか」とか 「1万ドルしかない」など、正直なところを話してくれます。  

     そういった話を通して、支弁者の意識がはっきりと分かります。「自分の子供にしっかりと学ばせたいから」なのか「日本で、すぐにお金儲けさせたいから」なのかは、100%分かるものです。

     いくら学力があっても、怪我をしたり病気になったりしては、あとは頼れるものは資金しかなくなります。そして、その資金がどこまで出せるのかを見極めることは事実上、不可能だと思われます。

     そのため、本校では必ず支弁者と何度も面談を行います。3年ほど前までは、紹介者以外は、学校から1時間で行ける子しか受け付けませんでした。「何かあったときに、すぐに対応できる」自信が持てなかったからです。

     次に、留学準備クラス(本校では留学志望の学生は、一般とは別にクラスを設けます)の学生達に話すのは、「最悪の場合を想定しておこう」ということです。

     最悪の場合とは、以下3つです。
    ・交通事故や重い病気などの健康問題が原因で留学ができなくなること。
    ・家族の不幸、盗難に遭うなどの金銭問題が原因で留学ができなくなること。
    ・N2さえ取得できないなどの学習問題が原因で留学の道が閉ざされること。

     以上を基に、授業の中で、あらゆる想定状況を学生に投げかけます。

     2005年のころは、ベトナム人学生の万引きが社会問題となっていたこともあり、こんな質問を失礼ながらしていました。

     『目の前に化粧品が山積みになっており、店員もいない。自分がどうしても欲しい化粧品があるが買えるお金がない・・・どうするか?』

     そこで、「手を出すかもしれない」と答えた子は、誰もいませんでした(当たり前ですが)。

     次に、化粧品をパンに変え、空腹に苦しんでいたら・・・とかも「水を飲んで我慢します」ということでした。

     最後に、弟か妹が急病で入院し、まとまったお金がいるという連絡が親から来たらどうするか? と聞いたところ、急に声が小さくなり「わからない」という感じでした。

     ベトナム人は、時に自分より家族を大事にします。昔、日本でも、ちゃぶ台を囲んで家族で食事や団欒をしていましたが、ベトナムは今がそうです。

     留学の障害となるのは、自分で出来る範囲だけにとどまらないことがままあります。それだからこそ、支弁者や家族がどれだけ本気で支えるのか知ることに受け入れ側の努力を注ぐべきだと思います。

     先に、準備として学力と資金を挙げましたが、もうひとつ最も大事な準備があります。

     イチロー選手のことを知らない日本人はいないと思いますが、野球選手にあてはめると 学力=能力 資金=技術 でしょうか。ただ、それだけでは、「打てるだろうか?」という不安に勝つことはできないそうです。

     彼のような突出した能力と技術を身につけた者ですら、そうです。そのため、彼は、意識を極限にまで高めてから打席に入るそうです。

     留学も失敗が許されない人生の大勝負です。

     気持ちの面を高めて、「覚悟」に近いところまで持てた学生は、成功の確率は非常に高くなります。

     よく学生に「どうして日本には道が多いのですか?」と聞き、怪訝な顔しているところに「華道、茶道、柔道、剣道、合気道・・・」と出していくと分かってくれます。それから、話は「心・技・体」へとまとめていくわけですが、 留学生に「心」の準備をさせるのは、教師の役割だと思います。留学への意識付けとも言えるでしょう。

     私は、今年で在ベトナム20年目となりますが、自らを振り返っても全く同じだなと思います。

     ベトナムに住める身体が出来るまでに、1年。日本語が何とか教えられるようになれるまでに3年。そして、ベトナムで精一杯やってみようと自分を投げ出す覚悟が持てたのが、10年後でした。

     留学生なら、とっくの昔に帰国している劣等生であることは間違いありません。

     彼らを見ていると本当に数年で自分を変えていきます。その成長振りには、目を見張らされ続けています。

     自分を変えられる青年が多ければ多いほどその国も変わっていけるはずとベトナムの10年後、20年後は大いに期待できると確信しています。

     私は、個人的には、20年でベトナムはアジアでGNP面で、中国・日本・韓国に次ぐ国に発展すると考えています。イメージ的には、60年代から80年代にかけて発展した日本です。

     ただ、そうなるために不可欠なのが、高度人材であることは間違いありません。

     ベトナム人は、おそらく世界でも対日好感度No1か2の民族ですから、ベトナムの発展は、成長の鈍化が進む日本を下支えしてくれるはずです。

     話が逸れましたが、次に日本語指導について書かせて頂きます。

    3 日本語学習指導で心がけていただきたい事

     「N5レベルの学生を受け入れて、2年後にN1に合格させられますか?」・・・

     私が、日本の日本語学校の先生方に質問したところ、「100%大丈夫!」と胸をたたかれた方は、残念ながら、まだお目にかかったことがございません。  

     入学後、オリエンテーションをされるかと思いますが、その際、ベトナム語でアンケート(お客様の声)をとられることをお勧めします。アンケート内容は、学習面では、以下のようなものです。

    ・あなたは、本校卒業時に、N1を取得したいですか?
    ・あなたは、本校卒業時に、国立大学か有名私大に合格したいですか?

     恐らく、上記2つであれば、驚かれるかもしれませんが、ほぼ100%の学生が「はい」と答えると思います。

     ベトナム人留学生の特長を挙げるとすれば、お金も大切だけれども、自分の将来のために、学力も身につけたいと期待して入学してきていることだと思います。

     そして、日本への憧れと大きな夢を抱いている青年達です。

     彼らの「はい」に対して、どのように回答されるでしょうか?

     「(漢字圏の学生と比べて)漢字もろくに読めないし、殆ど書けないレベルでは、N2も厳しい。そのため大学も非常に限定されたところになるので、それなら、専門学校の方がベターではないか」

      ・・・というようなご回答であれば、学生(=顧客)は満足して頂けるでしょうか? その学生が、兄弟や友人を紹介してくれるでしょうか?

     日本語学校は、言葉の出来ない学生を次の高みに高めてあげる高等教育機関

     ・・・ということこそが、日本語学校の使命であり生命線です。

     学生が、N1という希望(夢)を抱いているのであれば、先ず、「無理」と片付けるのではなく、可能性が1%でもあるのならば、それに対するスケジュールとクリアすべき課題を作成し、明確に与えなければならないと思います。

     先ほどの例であれば、「漢字をいかにして1年半以内に2000字マスターさせるか」などがそれです。

     それは、もちろん一人で出来るような生半可な学習課題ではなく、指導者が支え、励まし、創意工夫を繰り返して達成にまで導かせなければならない大変な「頂」です。

     ただ、漢字の話では、ベトナム語は昔漢字であり、アルファベットに文字を変えた現在でも「音読み」「訓読み」を持つ言語であることから、欧米などの非漢字圏の学生とは違うことがひとつの解決策となります。

     ベトナムは、非漢字圏ではなく、準非漢字圏(韓国に近い)と考えるべきです。 そう思うだけで、教員が「漢字ができないだろう」とは思わなくなれます。

     指導者の意識を変えることができれば、絶対に「漢字の壁」は乗り越えられるはずです。

     ちなみに、本校では、0レベルの子でも(月~金、毎日1時間半の学習で)1年あればN2は取らせています。

     更に、そういった工夫と努力はきっと指導面で実を結びます。ベトナム人への指導のスキルは必ず向上します。

     そして、一生懸命指導する教員や学校の姿勢は必ずベトナム人学生の心に響きます。その評価もお金では買えないものです。

     学校に非があっても、教員の熱意が低くても、ベトナム人は、ほとんど学校や先生を非難はしません。ただ、近い将来、誰も来なくなるだけです。

     ベトナム人学生に励まされながら、学校までつくらせて頂いた一日本人として、「ベトナム人学生は、真剣に向き合い、指導者が努力を最大限、注げば、必ずそれに応えてくれる学生」と断言できます。

     文法や「みんなの日本語」テキスト、クラスでの教授法などの指導方法などにも触れようかと考えましたが、長くなりますので、ここでは先ず、

     学校関係者・教員全員が「本気でN1を取らせる」という目標設定を共有することから全てが始まる

      ・・・と申し上げたいのです。

     そういった学校で学ぶ学生は、絶対、問題を起こしません。自分が愛情を感じている教員や職員や経営者の方々を困らせたり、迷惑をかけることはしないからです。

     ベトナムにある日系企業でも常時、日本語を指導しておりますが、日本人社員とベトナム人社員との関係が良好な会社や工場は、どこも高い業績を出しています。

     逆に、ストライキがあった会社などに行くと、日本人社員がクーラーの効いたきれいな部屋で業務をしており、ベトナム人は蒸し暑く、埃の舞う作業所で汗を流しています。

    4 最後に

     遠いベトナムで根を生やしている一介の教員が「釈迦に説法」な内容ばかり申し上げるのは、畏れ多く且つ、気が引けましたが、本稿をご高覧いただき何かひとつでもベトナム人学生のご指導に役に立つことやヒントになることがあれば、そして、ベトナム人学生が日本留学を少しでもHappyなものにできればと敢えて筆を執らせて頂きました。

     失礼な表現などもあるかと存じますが、どうかお許し頂ければ幸いです。  

     最後に、ベトナム人学生の受け入れやご指導などでご質問・お悩みなどございましたら、遠慮なくメールなどでご連絡頂きます様お願い申し上げます。                                                            以上